「さ・む・い」
杏はそう口の形で伝え、自分の腕をひっぱっていく翼をうらめしそうに見つめる。
さっきまで夢の中に杏はもちろん寝ていたままの格好、寒いのは当たり前だ。
翼はいろいろ準備もあってすでに着替えていた。
「が・ま・ん」
杏を真似てそう伝え、翼はてニッと微笑む。
我慢、なんて言ったもののやはり翼は自分のダウンを杏に渡す。
百戦錬磨のエースも彼女にはかなわないのだ。
杏の部屋までのわずかな道のりを2人はダウンを譲り合いながら行く。
「あたしの部屋に行くの?」
「ううん、違うよ!」
ニヤッと翼が笑う。
「え??」
でもすでに目の前には杏のアパート。
「今から着替えてきて!」
「?」
「僕はここで待ってるから!」
杏はますます不思議そうに翼を見る。
ニコニコご機嫌な翼に見送られながら、杏はアパートの階段を上がっていく。
「杏ちゃん!!」
「え?」
翼に呼ばれて杏はパッと振り返る。
「それと2日分の着替えもね!」
「え…」
杏の目が輝く。
何か素敵なことが起こりそうな予感!
「了―解っ♪」
ダダダッと杏は元気に階段を駆け上がっていった。

