もちろん客と私だけのこの空間で守ってくれる人は誰もいない。

暴力をふるわれようが、ヤクを打たれようが、殺されようが・・・

全ては自己責任。

幸い、まだ恐い思いはしてないけれど・・・

でもたまに‘ラブホテルで女性の遺体を発見!一緒に部屋に入った男性を捜索・・・’

なんてニュースを聞いたら、あーまたデリの子が・・・って思ってしまう。

「じゃあちょっとお風呂にお湯ためて来るね!」

透明のバスタブにどんどんお湯がたまって行く。

“家のもこんなに大きかったらいいのになぁ・・・”

家のバスタブは足も伸ばせない。

猫足の大きいバスタブのある部屋に住みたい。

部屋が狭くてもいい。

バスルームでTVが観れたり、バスタブに浸かりながら夜景なんて見れたら最高なのに・・・

ドアが開く音がして、夢のバスルームから現実に引き戻される。

後ろからずんぐりむっくり男がにやにやして近付いて来た。

「ユウちゃーん。
俺もぅ、待ち切れないよー。」

抱きついてねっとりと濃厚なキスを求められる。

やけに体温が高くって熊みたいだ。

それに乾いた口の臭いが鼻につく。

“――ホント気持ち悪い”
“このエロおやじが!あんたなんて死んでしまえばいいのに”

その時バスルームに取り付けられた鏡に映った女と目があった。

ジャケットを脱いで白いベアトップとパンツ姿の、アイメイクばっちりの女。

出掛ける時にしっかりセットした巻き髪もとれかけてる。

“感じてるフリなんかして馬鹿みたい”

“そぅ、このエロおやじよりも最低なのは私自身。
分かってる”

バスタブのお湯が溢れ出し、パンツの裾が濡れそうになる。


“私の心は”

“私の心はこんな風に溢れ出したらどうなるんだろ?”

“もちろんこんな透明なお湯じゃなくてドロドロした汚水が流れてるだろうけど――”