依鶴は、ポンとあおいの背中を押して、藤咲さんのそばに行かせた。
「さよなら」
依鶴は微笑んで手を振った。
ほんとに、なにもないのかもしれない。
「あ…さ、さようなら!」
あおいは慌てて言った。藤咲さんを見ると、静かに頭を下げていた。
「行きましょう」
藤咲さんが言って、あたし達は玄関に向かった。依鶴の視線は感じていた。だけどそれ以上なにも感じなかった。
「依鶴って、本当はいい子なのかもね」
長い廊下を歩きながら角を曲がったとき、あたしは呟いた。
「あおい様からそんな言葉が出るとは」
藤咲さんは言った。
「あ、あたしが変なのかなあ…。今日は色々ありすぎて…」
あおいは徐々に、気持ちが舞い上がってきた。
きっと、緊張の糸が解かれたのと、一日が終わったこと…そして
藤咲さんと二人で帰れることだ。
「今日は早めにお眠りになられたほうが良さそうですね」
藤咲さんは微笑んで言った。
「うん。でも、あたし、藤咲さんに今日のこといっぱいお話したい」
あたしははにかんだ。
綾がきて池野くんも来て…すごく楽しかったんだ。

