「ごめん、アッキー。うまく録音できなかった。でも、もう大丈夫だから」


明奈にも本当のことは言わなかった。


ただ、透真にだけは全てを話そうと思った。


透真のお陰で鳴沢先生に立ち向かい、真実を知ることが出来たこと。


そんな風に私を強くしてくれたのは透真への想いだということも……。


「じゃね」


校門の所で明奈と別れ、急いで動物園へ向かった。


―――私、桜井さんが好きです。


その一言を伝えるために走った。



それなのに……。



動物園のどこにも透真の姿はなかった。


園内を三十分近く歩き回り、いつも一緒に象の世話をしている飼育員のおじさんを見つけた。


「あ、あの。桜井さんは……」


おじさんは私に見覚えがあったのか、『ああ』と笑った。


「透真君は辞めたよ?」


「え?」


「詳しくは知らないけど、園長が北陸の両生類研究所に空きが出たって言ってたから、たぶんそこへ移ったんじゃないかな」


それだけ言って、おじさんは歩き去った。


―――うそ……。


あまりにも唐突な別れに涙も出ない。


―――うそ……。


私はアフリカゾーンに続く坂道を歩きながら、
『うそ』
と、頭の中で繰り返していた。


潤んでくる目を何度も手の甲でぬぐった。


ぬぐってもぬぐっても、涙があふれてくる。


透真が『さよなら』も言わずに自分の前から消えてしまったことが、まだ信じられないのに。


―――こんなの、あんまりだよ。


いつの間にか象の檻の前に立っていた。


薄暮のグラウンドにポツンとたたずむデラも何だか元気がないように見える。


「私たち、置いてけぼりにされちゃったね……」


象にかけた言葉が悲しくて、ますます泣けてくる。


―――ひどいよ、桜井さん。


気持ちを伝えることもさせてくれないなんて。


両思いになれるなんて期待してなかった。


ただ、好きだって言いたかった。


片思いでもいいから、あなたを見ていたかった……。