私は進路指導室を出た。


廊下に立って、ためらいながら胸のポケットからボイスレコーダーを抜いた。


―――これを暴露すれば……。


銀色に輝くペンをじっと見つめた。


私に辛い思いをさせた担任を、社会的に葬り去ることができる。


三年前の妊娠騒動で汚名を着せられた透真の名誉も回復させることができる。


これを談話室へ持ち込みさえすれば……。


簡単なことなのに……。


どうしても、足がそちらへ向かない。


会ったこともない女生徒の泣き顔が頭に浮かぶ。


私と同じ顔が涙を流している。


私は長い間、そこに立っていた。


遠くで足音が聞こえる。


バタバタと走ってこちらへ向かってくるような音。


たぶん、明奈だ。


私は迷った末に、ボイスレコーダーの録音を消去した。


―――あのチャペルの伝説は悲劇より、ハッピーエンドの方がいい。