呆然と立ち尽くしている私の腕を先生の手が強く引いた。


よろめいた体を、抱き締められた。


―――鳴沢先生が切り札にしようとしている画像って……。


先生が手にしているケータイに気をとられていたせいで反応が遅れた。


「もう……やめて下さい……」


震えながらも必死で先生の胸を押した。


「今度は絶対に手放さない。側にいてくれ。君がどんな風に僕を裏切っても許すから」


その言葉に驚いて、抵抗する手が止まった。


―――裏切った? 涼宮さんが?


まさか……。


「まさか、先生……。知らないの?」


私は先生の腕の中で、愕然と呟くように問いかけていた。


「先生……。涼宮さんが本当に先生を裏切って、桜井さんの子供を妊娠したと思ってるんですか?」


―――涼宮さんは先生にも本当のことを告げずに逝ってしまったの?


―――そこまでして……。自分ひとりが悪者になってまで、鳴沢先生の立場や将来を守りたかったの?


涼宮沙羅の想いが胸に突き刺さってくるようで苦しい。


「前園、なんで桜井の名前を知って……」


鳴沢先生が絶句するように言葉を途切れさせる。


「桜井さんは私に、付き合ってもいない女の子に『妊娠した』ってデマを流されて前の職場に居られなくなったって言いました」


「そんな馬鹿な……」


「私がその女の子に似てるから見たくないって……」


「嘘だ……」


先生はそう呟いたきり、黙り込んだ。