エレファント ロマンス

進路指導室。


外部の大学を希望する生徒が資料を収集したり、教師から受験のアドバイスを受けたりする場所。


中等部から女子大までの一環教育で人気のあるこの学校では、ほとんどの学生が内部進学を希望する。


だから、この部屋が利用されることはあまりない。


指導室の前の静まりかえった廊下に、鳴沢先生が立っていた。


先生は私の姿を一瞥した後、指先で壁の札をスライドさせ、『使用中』の表示に変えた。


そのまま無言で指導室へ入っていく。


足が前に進まなくなった。


―――由衣。何のために学校に来たの?


私はくじけそうになっている自分に問いただした。


『一点の曇りもない心で、透真に自分の想いを告げたい』


その一心でここまで来た。


私は明奈が貸してくれたボイスレコーダーを手に取り、録音スイッチを入れてから胸ポケットに戻した。


―――大丈夫。明奈も来てくれる。


私は両手の指をぎゅっと握り締め、進路指導室へと足を踏み出した。


「失礼します……」


声をかけて中に入った。


鳴沢先生は窓辺に立ち、目を細めるようにして外を見ている。


そのスラリとした後ろ姿に向かい、私は自分の気持ちをぶつけた。


「私、涼宮さんの代わりにはなれません」


「僕がきらい?」


「い、いいえ……。ただ……。私……、す、好きな人がいるんです」


そう打ち明けると、先生は無表情にこちらを見た。


「君も涼宮と同じことを言うんだな」


失笑するように口角を持ち上げる。


「涼宮さんと同じ?」


「おいで。この前送ったのより、きわどい画像を見せてあげよう。僕の言うことを聞きたくなるように」


その一言に息を飲んだ。


―――やっぱりもう、私は先生のものにされてしまったの?


男性経験がない上に泥酔していた私には、あの時、何があったのか想像もつかない。


最悪の想像に身が凍った。