エレファント ロマンス

入り口で数分迷った。


出入りする人たちにジロジロ見られているような気がして、何だか居たたまれない。


コンシェルジュらしき制服が受付を出て、こちらに近づいてくる。


―――不審に思われた?


私は急いで自動ドアの前にあるインターフォンに部屋番号を入れた。


返事はなかった。


が、すぐに自動ドアが開く。


重い気分でエレベーターに乗った。


高層階へ上がる気圧変化で耳の奥が痛む。


ポ―――ン……。


あっという間に最上階についた。


3005号室。


部屋の前で時計を見た。


7時15分。


とにかく、申請用紙をもらって、ここから無事に出てくる。絶対に。


自分に暗示をかけるように言い聞かせ、インターフォンを押した。


扉が開いた。


開けたドアを支えている鳴沢先生を見ただけで、足がすくむ。


「入って」


先生が涼しく微笑んだ。


「い、いえ……。ここでいいです。申請書をいただきに来ただけなので……」


私は何とか扉の外に踏みとどまろうとした。


「話したいことがある。あがりなさい」


その有無を言わせない口調に逆らえず、仕方なく靴を脱いだ。


マンションとは思えない贅沢な空間。


リビングは男性の一人暮らしとは思えないほど片付いていた。


「僕も今、学校から帰って来たところでね。申請書、すぐに用意するから座ってなさい」


言われるがままに、ソファに腰を下ろした。