エレファント ロマンス

『メール、見てくれた?』


鳴沢先生の低い声。


「は……はい……」


仕方なく返事をした。


『7時に待ってる。最後の4桁が部屋番号だから』


返事ができないでいるうちに、通話が切られた。


―――どうしよう……。


ケータイの右隅に表示されている『18:30』という時刻が、タイムリミットまでわずか30分しかないことを告げる。


私は迷いながらも、はるか前方に霞んで見えるタワーマンションに向かって歩き出した。


途中、明奈に電話をかけた。


『由衣? なんで、学校に来ないの? 月曜日から学校来るって言ったじゃん』


いきなり苦情をまくしたてられた。


『連絡もくれないし、やっぱり私のせいかなって、そう思ったら怖くて、こっちから連絡できなかったし……』


明奈の声が今にも泣き出しそうに震えていた。


私は思いきって言った。


「アッキー。何があっても、私のこと信じてくれる?」


こっちの真剣さに飲み込まれるように、明奈は
『う、うん……。なに?』と、戸惑うようなトーンで聞いてきた。


「何も聞かずに、7時過ぎにトライスターの3005室に来てほしいの」


やはり、鳴沢先生のことは言えなかった。


私は明奈が来てくれることに賭けた。


先に申請用紙を要求して、それを受け取った直後に、明奈が来てくれたら……。

『7時過ぎ? 今から家庭教師くるから7時は無理かも』


その返事に絶望しそうになった。


『けど、授業の途中で仮病つかえば8時くらいには行けると思うよ』


「わかった。絶対きてね」


そう言って電話を切った時、トライスターが目の前にあった。