エレファント ロマンス

「デラはサリの代わりにここへ来た。よその動物園で飼育されてたサリの子供なんだよ」


「それなら尚さら、彼にデラの世話をさせるなんて残酷だと思います」


「逃げてほしくないんだ。彼の父親もきっと僕と同じことを願ってるはずだ」


「………」


この複雑な気持ちを言葉に出来なかった。


「彼がここに面接に来たとき、前の職場を辞めた事情も聞いたよ」


透真は園長さんにも自分が女子高生にハメられた話をしたんだろうか。


そうとう根にもってるな。


「同情はするが、逃げてきたとしか思えない。過去から逃げ、職場も放棄した。このままじゃ、これから先も逃げ続ける人生を送ることになる。彼に必要なのは現実に立ち向かう勇気だ」


前の職場でのことはよくわからない。


「でも、目の前でお父さんがゾウに殺されたんでしょ? 誰だって一生の傷になると思います。ゾウに優しくできなくて当然じゃないですか?」


なぜか、透真の気持ちを必死で打ち明けている自分がいた。


「ゾウは理由もなく暴れたりしないんだよ。」


園長さんは私を諭すように静かに微笑んだ。


「サリは桜井君が亡くなった後、エサをまったく食べなくなって……衰弱して死んだんだ。彼の後を追うようにね」


「そんな……」


それほど深い絆でつながっていたのに……。


「なんでサリは透真のお父さんを……」


「その理由を彼自身に見つけてもらいたいから、象の世話をさせてるんだよ」


サリが暴れた理由……。


「とにかく、彼のお父さんが最も愛した生き物を、息子である彼にも理解して欲しい。僕の願いはそれだけなんだよ」


そう言われて、私は再びアルバムに目をやった。


ふたりの飼育員の顔にあふれている誇りと満足感。


園長さんはアルバムをパタンと閉じ、大切そうに抱えてキャビネットへ戻した。