エレファント ロマンス

「ついておいで」


園長さんに連れられ、アフリカゾーンを越えた。


売店のおばさんが言っていたコンクリートの建物に入った。


その建物の奥にある園長室で一冊のアルバムを見せてもらった。


「これは……」


象を真ん中にして、ふたりの飼育員が写っている写真のページを見せられた。


写真の下に『三宅、サリ、桜井』とある。


ひとりは若い頃の園長さんだとわかる。


サリというのはこの象の名前だろう。


もうひとりは透真にそっくりな目をした男の人。


「桜井さんの……お父さん?」


「そう。彼の父親は僕の後輩で、象の飼育員だった」


「じゃあ、桜井さんのお父さんが亡くなったとき、一緒にいて重傷を負った飼育係の人って……」


「僕だよ。すぐ側にいたのに、助けられなかったんだ」


園長さんは辛そうに目を伏せた。


「透真君は象の飼育員だったお父さんが自慢だった。いつも閉園後ここに来て、父親が象の世話をしてるのを見てた。不幸なことに、あの事故は彼の目の前で起きたんだよ」


「うそ……」


ぶわっと唐突に湧き上がってきた涙で、アルバムの笑顔が見えなくなった。


「それなのになんで、彼にゾウの世話をさせるんですか?」


問い詰めるように聞かずにはいられなかった。


「彼のお父さんが運び込まれた病院で、亡くなる間際に『サリが悪いんじゃない。サリを処分しないでください』って言ったんだ」


インターネットで飼育中の象に関する事故を調べた時、飼育員を死なせてしまった象たちの悲惨な末路も知った。


たいていの場合、殺処分されたり、狭い檻に幽閉されたりしていた。


園長さんの目は、同僚の最期を思い出したように涙で潤んでいた。


「桜井くん、他に言い残したいことはいっぱいあっただろうに」


聞いているうちに胸が苦しくなった。