「あの……」


「はい」


優しそうな笑顔が振り返る。


『なんで、桜井さんにゾウの世話なんかさせるんですか?』


なんて、抗議できないような、善良そうなおっとりした笑顔。


「さ、桜井透真さん、いつからここで働いてるんですか?」


とりあえず、やんわりと外角から攻めてみた。


「君、彼の友だち?」


友だち?


一瞬、返事に困った。


けど、知り合いでもないのに、彼のプライバシーに関わる質問をするのは不自然だ。


「はい。このパスも桜井さんにもらいました」


私は知り合いだという証拠を誇示するように、年間パスを園長さんに突きつけていた。


「去年だよ。臨時採用でね」


「自分からここで働くことを希望したんですか?」


「もちろん、そうだよ」


「ほんとに?」


意外だった。


ここは彼の父親が悲惨な死を遂げた場所なのに……。


「と言っても飼育係りを希望してるわけじゃないがね」


「え?」


「北陸に、この動物園と関係の深い両生類の研究所があってね。そこで欠員が出れば、ここの職員から補充することになってる。彼はそれを希望してるんだよ」


「つまり、ここの職員なら何を担当しててもいいんでしょ? なのに、なんでゾウの飼育員なんかさせるんですか? そんなの……。そんなの残酷すぎる」


抗議しながら、目が潤むのを止められなかった。


そんな私を、園長さんは慈しむような瞳で見ていた。