「ち、違う。そうじゃなくて……。えっと……。何て言うか……」


特別な恋愛感情があるわけじゃない、ということを必死で説明しようとしたが、うまくいかない。


「ごめん……。きのう、この動物園で20年前に起きた事故の記事、ネットで読んじゃった……」


白状する私を見下ろしている顔が、見る見る凍りつく。


「あれって、やっぱり……桜井さんのお父さん?」


たずねると、彼は表情を隠すように目を伏せた。


「だったら、何だよ」


まつげを伏せたまま言い返してくる透真を見て、なぜか胸が締め付けられる。


「なんで……。なんで、そんな辛いことするのかなぁ、と思って……」


泣きそうになって語尾が震えた。


「私、桜井さんがゾウのこと、嫌いだったり怖かったりするのは仕方ないと思う。なのに、なんでゾウの飼育係りをやってるのかが理解できない」


透真は私の顔をチラッと見た。


が、すぐに目をそらし
「知るか、そんなこと。園長に聞けよ」
と、つぶやくように言って、象舎の方へ歩き去った。