がちゃん。


目の前で鉄の扉が閉まった。


『STAFF ONLY』


関係者しか入れない象舎の入り口が閉ざされた。


私は仕方なく、観覧コーナーへ回った。


バルコニーから見下ろした透真は、いつものように掃除を始めていた。


相変わらず、やる気のない動作。


しばらくして、もう一人の飼育員が象を連れてグラウンドから戻ってきた。


その気配に驚くように透真がビクリと肩をふるわせ、象を凝視している。


ベテランらしき飼育員が、彼の方を見て何か言った。


透真は困惑するような顔。


何を言われたんだろう……。


明らかに動揺している透真を不思議に思いながら見ていた。


おじさんの飼育員が彼の肩をポンと叩いて出て行った。


象がゆらりと鼻を揺らした。


それだけで、透真があわてた様子でふれあいコーナーに駆け上ってくる。


そこは象の鼻がようやく届くだけの安全地帯。


―――桜井透真。絶対、ゾウを怖がってる。


今日からひとりで象の面倒をみろとでも言われたんだろうか。


想像しながら、彼の様子を見守った。


しばらくして、やっと落ち着いたみたいに、透真はコーナーの奥にある扉を開けた。


中から大きな箱を引っ張り出してくる。


コンテナみたいな箱には、リンゴだのバナナだのが入っていた。


ゾウの餌だ。


彼はコーナーの手すりの上に箱を持ち上げ、そのまま引っくり返して中味を下にぶちまけた。


バラバラと墜ちたバナナやリンゴが象の体にぶつかる。


ひどい。


皮膚が厚いから痛くはないんだろうけど、それにしても、そんな与え方ってどうよ。


見ているこっちが腹が立つ。


一方、象のデラは、足元に散らばった餌を器用に鼻でつかみ、口へと運んでいる。


割れて泥だらけになったリンゴを。


その姿は何だか哀れに見えた。