飼育員のおじさんは明奈の勢いに圧されるように
「じ、じゃあ、先にお姉さんたちにお手本、見せてもらおうか。ね?」
と、園児たちに言い聞かせるように言った。


「やった!」


明奈は私の手を引きながら、園児たちの羨望の眼差しの中を、ふれあいコーナーに降り立った。


おじさんが、バナナを一本ずつくれた。


「デラ!」


飼育員が呼ぶと、すぐさま、ひび割れたグレーの鼻が伸びてきた。


しかも、いきなり私に向かってくる。


「う……うわっ……」


象の鼻は思わず後ずさりしてしまうほど迫力がある。


ピンク色の鼻先が手元に迫った時は、ちょっとドキドキした。


あ。


ふと、あの若い飼育員がこちらを見ているのに気づいた。


どこか不安そうな表情。


彼は私と視線がぶつかった瞬間、ふっと視線をそらした。


故意に無視するみたいに。


―――やっぱりヤな感じ。


飼育員に気をとられている隙に、握っていたバナナを象に奪われた。


決定的な瞬間を見逃した私は、何だか損をした気分だった。