「由衣。あたし、キリンが見たいな」


明奈がニコニコ笑いながら言った。


「小さい頃、ナイロビのホテルの窓から見て感動したんだぁ」


クラスで1番親しみやすい明奈もやっぱり『お嬢様』なのだと痛感する。


私は海外旅行なんて一度もしたことない。


ましてやケニアなんて……。


「キリンってどこ?」


「あっちだよ」


明奈にソフトクリームをおごってもらい、ふたりでアフリカゾーンに続くゆるい坂をのぼった。


「うわぁ。由衣、見てー」


明奈が肘で私をつつく。



「アッキー、そこ、キリンじゃなくてゾウだけど」


「わかってるよ、そんなの。動物じゃなくて、ヒト! あの飼育係の人、かっこよくない?」


飼育係と聞いて、嫌な予感がした。


あの舌打ちの音が甦る。


「ほら、あの人!」


案の定、明奈が指差した先に、象の嫌いな飼育員がいた。


「あの人はやめといた方がいいよ。感じの悪いヤツだから」


「由衣、知り合い?」


私はぶるぶると首を振った。


「知らない。昨日ちょっと話しただけ」


「ふうん……。でも、あんなダサいツナギ着てゴム長はいててもあれだけカッコいいんだよ? もうちょっとコジャレたカッコしてくれたら、かなりタイプかも」


惚れっぽく冷めやすいのも明奈の個性。


その上、明るく可愛いから、誰かを気に入った次の日にはその相手と付き合っていたこともある。


その彼女が告白さえ出来ないでいるのが鳴沢先生。


―――やっぱり言えないよ……。