「ありがとね、咲月」
咲月の方を向いて微笑んだ後、歩美と向かい合う。

一呼吸置いたあと、バツが悪そうな顔で「ごめんね…歩美」今にも消え入りそうなほど小さな声で呟いた。

「……へ?」
いきなり謝られた歩美は、訳がわからない…といった顔をしていた。

「さっき…突き飛ばしちゃって、ごめん……」
本当に後悔しているみたいだ。
声が少し震えている。
「でも…」
まだ何か言いたいのだろう、言葉を繋ぐ琴。

「歩美を突き飛ばしたのは、歩美のことが嫌いだからじゃないよ?」
歩美に確かめるように首を傾げた。
「……」
少し間を置き、歩美は小さく首を縦に動かす。

その行動に満足したのか微笑し、また喋り出した。
「ただ…ほんのちょっと、歩美にキレちゃったんだよね……」
申し訳なさそうに後頭部を触る。
「…ほんのちょっとじゃないかも。うん、すごく…すっごく頭にきた」
表情が変わり、真剣なものとなった。

「帰るなら一言、一言でも良かったから言ってほしかった」
真剣な声色から一変…淋しそうな声に変わり、瞳が潤んでいた。

「言いたいことはいっぱいあるけど…長くなっちゃいそうだから……」
そう言いながらギュッと歩美を抱き締めた。
その存在を確かめるように力強く、優しく。

「歩美は、淋しかったんだよね?」
「……うん」
こくりと頷く。
「何で淋しいと思ったの?ずっと1人だったんでしょ?」
「え?何で、って…」
琴の質問の意味がわからないようだ。
「だってずっと1人だったら淋しいなんて思わないでしょ?歩美は1人じゃないから1人になったときに淋しいって思ったんだよ。つか1人じゃないけどね」
言いながら歩美の頭をポンポン優しく叩く。