紫御殿†Purple heart

「これ、使うといい」

雨の音と共に、囁くように
低い声が聞こえた。

私に代わって、雨に濡れる
貴方の姿が見える。
 
すらっとした長身で、傘を
持たない方の腕を黒いスーツの
袖に通し、端正な顔立ちに
眼鏡がとてもよく似合う

素敵な男性だった。

貴方は、私の事を、じーっと
見つめて、何かを言おうとした
がその言葉を飲み込み
唇をきつく閉じた。

時が止まったように

貴方から視線を外せない。

知らない男性と至近距離で
見つめあう。

二人きり。

貴方を見つめる私の胸の鼓動は

あの日のように

どんどん、どんどん

速くなり苦しくなる。