遊具のある広場は
フリーマーケットが開催されているエリアより
人が少なく
ゆったりとした空気が流れていた。
「ママ、こっちこっち」
ブランコが空いているのを見た優奈は
ふて腐れ顔は何処へやら
直子の手を笑顔で引いてブランコまで誘導した。
「ママ、押して」
笑いブランコに乗る優奈
直子はその背中を押し
てあげた。
楽しそうに笑う優奈の声が、日々仕事と家事で疲れた直子に癒しを与えてくれる。
「もっと、もっと」
直子は優奈の気が済むまで遊びに付き合って
そして
優奈が砂場で一人遊びを始めると
近くのベンチに座りその様子を見ていた。
暖かい陽射しのせいか
日頃の疲れたのせいか
次第に瞼が重くなる直子
気づいた時には眠りに落ちていた。
「―マ、…ママ」
暫くして、優奈に揺り起こされ、目を覚ますと
既に陽が傾きかける時間だった。
「ママ、優奈お腹すいたよ。もう帰ろ?」
優奈はそう言い直子の顔を覗き込んでいる
「そうね、帰ろ。ごめんね、ママ寝ちゃって」
直子は軽く伸びをしてベンチから立ち上がると
優奈が何かを持っているのに気づいた。
「優奈、それどうしたの?」
「捨ててあったの」
直ぐに答えた優奈が持っているのは
先程まで優奈が欲しがっていた人形。
「捨ててあったってどこに?」
「あそこ」
優奈が指したのは
砂場近くのごみ箱。
「そこから拾ってきたの?本当に?」
コクンと頷く優奈。
嘘をついている感じはない。
「でも、ごみ箱に入ってたものなんて汚いでしょ?」
「でもね、トトちゃんが連れてって欲しいって
言うんだもん。」
ギュッとその人形を抱く優奈。
その人形は
赤ん坊のような見た目で
大きさや質感は結構リアルに作られている
電池を入れれば泣いたり
口の隙間から水を飲ませたりでき、子育てを擬似体験できるやつだ。
誰かの忘れ物かしら?