「いっちゃん凄いねえ。テスト全部百点だなんて。いつも授業中耳栓して話聞いてないのに」
「凄くなんかないよ。聡恵さんだって頭は良いんだから、やればできるよ」
聡恵秀一の賛辞に、財川衣摘は分厚い単語帳を見ながら答えた。
五月中旬のほど好い暑さの中、衣摘と秀一は帰路を歩いている。学校が中間テストの返却だけですんだため、午前中の帰り道には、まだまだ幼稚園臭の残る、黄色いカバーを付けたランドセルが目立つ、小学生達の集団下校の様子がいくつか見られた。
「いっちゃん、それ重くないの」
「平気。慣れた」
衣摘は決して単語帳から視線を外さない。今日も単語帳の内容を暗記するため、印刷された単語やその用例等を片っ端から頭に叩き込んでゆく。
「前から不思議だったんだけどさ。いっちゃんって器用だよね。俺と話ながら単語覚えて」
「それを言うなら私も不思議だよ。聡恵さんはよく怒らないね。こんな風に話されたら普通は怒るのに」
「なんで怒るの? 俺が勝手に話し掛けてるだけじゃん」
「人が話してるときはその人の目を見ろって、この前矢橋に説教された」
「矢橋かー! あの糞ジジイ、マジうぜー。何で体育教師ってうざい奴しかいないのかねえ」