「オレ、あいつとマヂで結婚するから」

向かいに座った学ランの男の子たちがそう話しているのを聞いて、思わず頬笑んだ彼女の横顔を見て、胸が痛くなる。


結婚したい、とならいくらでも言ってあげられる。
この先もずっと一緒にいるなんて、出会ったときから決めている。

だけど。

じゃあ本当に、結婚するために市役所まで婚姻届けをもらいに行くなんてことは、僕にはまだ出来そうにない。


歳とか、お金とか、そういうのじゃなくて。
それも少しはあるけど。
まだ遊び足りないとか、自由でいたいとか、そういうのじゃなくて。
それも少しはあるけど。


彼女をずっと幸せにするっていう覚悟を、決断するだけの自信を、僕はまだ持てずにいる。


「聞いてる?」

話を振られて、彼女の話に全く気づいていなかったことに気づく。
正直に謝るべきか、話を合わせるべきか、一瞬迷って謝った。

「どうしたの?」

訪ねられて、なんでもないと答えると、彼女は僕の手を握って、肩に寄り添った。

言葉と一緒に、温もりが伝わってくる。

「あたしねー、こうやって一緒にいれば、なんとかなる気がするんだよね。何があっても、何が足りなくても」


何より大切な人だから。
誰より幸せにしたいから。
心から愛しく思っているから。
絶対後悔させたくないから。


中途半端な自分のままじゃ、伝えられない。