「暗いですから足もとに気をつけてください。滑りますから」


どうやら地下水が漏れているようで
階段にも水が流れている。

気をつけていても滑る。

それにしても暗い。

暗すぎる。

これが印刷工場なのか?

恐る恐る地下へ続く階段を降りると
そこはまるで要塞。

低い天井に吊るされた裸電球が
点々とその弱い光を放っている。

右へ左へまるで迷路のように張り巡らされた
通路は狭く空気が冷たい。


「すいません。この奥ですので。ここはですね。家賃が安いんですよ。昔、戦争中に防空壕として利用していたところなんですけどね」


「はあ、そうなんですか。防空壕、、、」


「昔ね日本軍が来たときにも皆ここに隠れた場所なんです」


「そうですか。ここに隠れたんですね、、、」


なぜ防空壕なのか?

なぜこんなに暗いのか?

なぜ狭いのか?

なぜ湿気が多いのか?

なぜだ、なぜなんだとしきりに自分に問いただしている。


「ここで皆さん働いているんですか?さっきから人1人見てないけど、、、」


「えー、ちゃんと。この奥に工場があるんですよ」


「この奥、、、」