「え、あぁ、うん。(あれ?なんか…)」

「じゃあ、帰ります。」

「ん。気をつけてな。」

「じゃな、堀口。」

「うん。じゃあね。(なんだろう?いつもと違うような…)」



担任とのマンツーマンでの特訓を終えた佳菜子は、
机に頭をつけて、しばらくボーッとしていた。


どこかの部活中のかけ声に、耳をすませていると、

「夏休みに入っても、今日のところ忘れるなよ。」

みごとに掻き消す担任の声。


「は…い…」

「バスケに夢中なのも良いが、その情熱を少しだけでも、数学に注いでほしいものだなぁ…ソレでメシ食っていくんなら、また別の話だけど…」

「あー。いーのかなぁそんなこと言って!」

「辞めろとは言ってないぞ!ほんの少しで良いんだよ…僕も協力するから!」

「はぁ…がんばります。」


立ち上がると、グラウンドに射し込む夕陽に汗を輝かせ走る、サッカー部や陸上部が目に入ってきた。


「先生、こんなに頑張ってるのに…意味無いのかなぁ?」


そんな問いかけに、

「意味は無く無いよ。高校時代の良い思い出や自信になるだろう。ただな、未来があってこそだぞ!後悔の前では、同じ思い出も台無しだ…それじゃ、つまらないだろ?」

分かっていることを、さも偉そうに言われ、さらにイラっとする。

そして、

自分のことはもちろん、
グラウンドでボールを追いかける清瀬を見つめては、大沢についても考えている佳菜子だった。