どこかで誰かが…

日本に帰る2日前の朝――――


「佳菜。」

「ん…?」


佳菜子の寝呆け眼に、うっすら映る片桐の顔。


「ごめん。今からちょっとオフィスに顔出さなきゃならなくなって…出来るだけ早く戻るから待ってて。」

「どうしたの?何かトラブル?」

「うん。行ってみなきゃ分からないけど。」

「わかった…気をつけてね。」

「行ってくる。」


佳菜子がベッドから降りると、

「あ、いーよ。まだ寝てろって。」

「見送りたいの!」

「じゃあ、はい!」

「え?」

「いってらっしゃいのキス。」

「バカ。」

「じゃな。あ!ドア開けるなよ!」

片桐は頭を撫でた。

「…はい。」

「いってきます。」

「いってらっしゃい。」


こうして玄関で片桐を見送ったあと、いつしかやってくる、こんな感じの未来の予行練習でもしたかのようで心が弾んだ。


カーテンを空けると、窓から見える街と自然が融合する景色に気持ちも大きくなり、

「ちょこっと、散歩にでも行ってみようかな…」

ほんの少しだけ、1人で町に出てみることにした。