どこかで誰かが…

「スランプ脱出?」

「やっぱ、すげーな。」

「まぐれじゃね?」


意見は賛否両論だが、
この体育館だったからこそ、際立って見えたことに間違いはなかった。



「なんか、頑張れそうな気がしたよ。」


それは練習後、水飲み場での高木の言葉だった。


「今までだって、頑張ってたじゃん。」

「どこが?」

「頑張って周りに合わせてた。」

「…」

「本当なら、上手い人に合わせるのが普通なんだけどね…チームプレーは難しいね。」

「これからは、やれること、やってみようと思って…」

「うん。」

「サンキューな!…あの言葉がキイたよ。」

「あ、魔法の言葉?でもアレは、ゆっこちゃんが私に言った言葉で、」

「違うよ。フォームが綺麗だって…言ったじゃん。」

「あー。」

「フォームとバランスは基本中の基本だ。初心に帰ってやってみる。」

「うん。」


そこへ、

「お邪魔してすみませんが、水、飲んでも良いっすかね?」

カラオケの帰りのコトを知る者が、わざと、冷水機の水を飲みにやってきて、

「おっしゃ!たっぷり飲んでくれ!」

その男の背中をピシャリと叩き、高木は部室へと消えて行った。