「えっ、数回?」
嘘っ、それだけ!?
「ああ。だから相当辛かったんじゃないかな。俺や静香達にはそんな愚痴は一切こぼしたことはなかったけど」
風が私達の元を冷たく通り過ぎていく。
今、どんな顔して話してるんだろう。
何を思って私を抱きしめてるの?
陽生の腕の力が強くなるたび、胸がこれでもかってぐらい張り裂けそうになる自分に気づく。
「そ…なんだ……」
たまらず、陽生の腕にそっと自分の手を添えた。
その瞬間陽生の額が肩にかかり、ギュッとその手を握り返されて…
「それでも何もしてやれなかったんだ」
「えっ?」
「見てたのに。日に日に壊れていくあの人の姿をこの目でずっと見てたのに、俺は何もできなかった」
「はる……」
「せめて、話しの一つでも聞いてやれれば、ちゃんと向き合ってやれればこんな最悪なことになってなかったんじゃないかって、時々思ったりしてな」
肩に、寂しそうな陽生の声が落ちてくる。



