甘い体温②・前編・


――…もう、逃げられない。



そう思った私は覚悟を決め、必死に冷静を装いながらブラウンの元へと足を進めた。



大丈夫。


こんなのどうってことない。


私にはもう関係ない人達なんだから…


あえて私は優達から視線を逸らし、グッと歯を食いしばった。



「ブラウン帰ろう」



縛ってあったリードを外し、その茶色い体を抱き上げる。


斜め後ろから痛いほどの視線を感じたけれど、気付かないふりしてまた横を通り過ぎた。



「果歩……」


「あーあ。せっかく買ったお酒落としちゃった。大丈夫かな」



あえて話しかけられる隙を与えないようにブラウンに問いかける。


こんな人達なんか知らない。


私には母親なんていない。



「果……」


「あ、でも瓶がなかっただけギリギリセーフか。何とか飲めそうだよ。よかったね」



落ちた袋を拾い上げた瞬間、ガシっと後ろから腕を掴まれた。