甘い体温②・前編・


けれど、果歩はかたくなに首を横に振るだけで、何も話そうとはしなかった。


ただ「大丈夫」の一点張りで。


どう考えても大丈夫なはずはないのに。


どう見たって辛そうなのに。


よっぽどその話題に触れたくはないのか、俺にしがみつきながらひたすら口を閉ざすだけ。


結局俺はそれ以上何も言えず、果歩を抱きかかえたまま寝室に足を向けた。





……ガチャ。



「やっ、待って」



とりあえず果歩をベッドに寝かし、立ち上がろうとした瞬間、グイっとスーツの端を引っ張られた。



「えっ?」


「寝付くまで隣にいて、一人にしないで」



果歩が上半身だけ起こし、真っ直ぐ俺を見つめてくる。


俺が風呂にでも向かうと思ったんだろうか?


いや、実際乾いた喉を潤そうと、一度キッチンに行こうとは思っていたのは確かだけど…



「果歩……」


「お願い…」



スタンドライトのわずかな明かりの中、目の前の瞳が寂しうそうに揺れて見えた。