けれど、果歩はかたくなに首を横に振るだけで、何も話そうとはしなかった。
ただ「大丈夫」の一点張りで。
どう考えても大丈夫なはずはないのに。
どう見たって辛そうなのに。
よっぽどその話題に触れたくはないのか、俺にしがみつきながらひたすら口を閉ざすだけ。
結局俺はそれ以上何も言えず、果歩を抱きかかえたまま寝室に足を向けた。
……ガチャ。
「やっ、待って」
とりあえず果歩をベッドに寝かし、立ち上がろうとした瞬間、グイっとスーツの端を引っ張られた。
「えっ?」
「寝付くまで隣にいて、一人にしないで」
果歩が上半身だけ起こし、真っ直ぐ俺を見つめてくる。
俺が風呂にでも向かうと思ったんだろうか?
いや、実際乾いた喉を潤そうと、一度キッチンに行こうとは思っていたのは確かだけど…
「果歩……」
「お願い…」
スタンドライトのわずかな明かりの中、目の前の瞳が寂しうそうに揺れて見えた。



