木村優衣、12歳。今日から中学生。サクラの花は、そろそろ葉桜になってくる頃、私はこの青山中学校に入学した。真新しい制服は、まだぶかぶかで。いつかこの制服がちょうど良くなる日が来るのかなあ、なんて思いながら、私は家を出た。


「優衣ーっ!」
「千沙!!」
向こうから、同じようにぶかぶかの制服を着て走ってくる女の子は、親友の田中千沙。彼女も今日から中学生だ。千沙とは家がすごく近いから(隣でーす)、とても仲がいい。隠し事なんかせずに何でも話せる、大好きな友達だ。
 

 千沙は背が高くて、小学校の頃はバスケ部だった。運動神経もいい千沙はすぐにレギュラーになって、みんなから注目を浴びた。試合のときなんか、1人で何本もシュートを決めて、大逆転を決めたこともある。そんな千沙はルックスもバツグンで、けっこうモテていた。
 
 私はというと・・・背はクラスでも小さいほう。ほとんどが小さい順で並べば一番前だった。運動の才能なんてこれっぽちもない。そのくせして、お姉ちゃんの真衣は100メートルを県で2位の記録を持っている。きっとあたしの運動神経は、全部お姉ちゃんに持ってかれたんだろう。

「今日は入学式だねっ!優衣と同じクラスだといいな♪」
「あたしも!千沙と同じクラスがいい!うちら一回も同じクラスになったことないもんね。」
「たしかに!家が近いからかな?」
その通り、私たちは一度も同じクラスになったことがない。
「あれが青山中学だよねっ?」
「ほんとだっ!走ろ!!」
私たちは一目散に駆けだした。


 クラス分けの紙が貼り出してある。だけど、人だかりが多くて全然見えない。まったく、背が低いってつくづく損だ。
「優衣・・・。」
隣にいた千沙が、がっかりした様子で言った。
「うちら、また別のクラスだよ・・・。」
「えーっ!また離れちゃったの!!」
私もがっくりと肩を落とす。
「優衣が2組で、あたしが8組。遠いよお・・・。」
「そんなに!?千沙、2組に遊びにきてね!あたしも遊びに来るから!」
「うん・・・」
1年生は、全部で8クラス。私たちは、離れ離れになってしまったのだ。

 
 教室に入ると、知らない顔があふれていた。何しろ県内有数の大規模校。四つの小学校から人が集まってくる。