狭い棺桶の中に納まった青木は、白い着物を着せられていて、
体の輪郭も菊の花で埋まってしまって見えない。
閉じられた目蓋が動きそうなくらいに健康的な肌の色そのままで。

泣き崩れている太田が涙でまみれながら菊を入れ、赤い目の田中が菊をいれる。
 陽一郎は自分でも不思議なくらい、
はっきり場面を見ていて、
泣いている青木のお姉さんや、
お母さんをカメラのシャッターを切るように見ていた。

どうしてこんな着物を着なくてはいけないのだろうかと、
そんなことに腹が立った。
 そうなのだ。陽一郎はずっと悲しさよりも怒りのようなものを感じていた。

気使いする母親の目や、クラスメイトの遠慮がちに通りすぎる態度や、
主婦連中のヒソヒソ話や、病院の受付の受け答えや、あの夜、
苦しそうに佇んでいる青木を放って帰った自分のこと。

そして、勝手にあっさり死んで、すまして着物なんか着て、
こんな棺桶なんかに納まってる青木に……。

「なに勝手に死んでやがる」と胸ぐらを掴んで、
ぶん殴ってやりたかった。  そんなことは出来ない。
噛みしめた奥歯と握り締めた掌を治め、菊を入れる。
その組まれた手に触れてみたく、

お母さんに触れてもいいかを、断らなければいけないかと頭は考えたが、

菊を差し入れた手が、意識とは反対に勝手に青木の皮膚を触っていた。

田中が少しこちらを振り返ったように思えたが、関係なかった。

その皮膚は、冷たく体温がなく、初入水の時に叩いた肩の冷たさを思い出させた。