谷川に言うと怒りそうだけど、俺らにはそこまで運と才能は無いと思う。

無くていいんだ。

俺的には、3人であーでもないこーでもないって悩んで地道に努力したい。

谷川が、俺の作る曲は渋くて好きだって言って、バンド一緒にやろうって誘ってくれた。

太田は、普段は口数少ないのに、カッコイイ言葉を俺の曲に乗せてくれる。

3人で、曲をいじって完成させていく作業、俺、ライブの次に好き。

そんで、ライブやって、こつこつお客さん増やしてって。

ワンマンで全国回れるようになったらいいなーってかんじ。

音楽1本で生活できたらいいなーって、かんじ。

そうなって、俺らの音楽が日の目を見るなら、いいけど。

こんなピヨピヨで実績もない状態で、デビューとか。

そんなに甘くない。

インディーズレーベルからCD出したときは、嬉しかった。

自費出版だから、極端な話、出そうと思えば誰でも出せるんだけど。

お金かかるわけ。

買ってくれる人がいなきゃ、怖くて出せないよ。

最初は、半分賭けみたいな気持ちだった。

ありがたいことに、たくさんの人が買ってくれた。

新しいアルバムも、出すことになった。

嬉しいよね、俺らの音を、普段聞いてくれてる人がいるってことは。

アンケートに、新曲楽しみにしてますなんて書いてあると、俺泣きそうになる。

俺らがやってるのは、ちょっと古くさいロックなんだけど、みんなどんな気持ちで聞いてくれてるんだろ?

ワンマンのチケット、順調にはけてるし。

新しいアルバムの告知もワンマンでする予定なんだけど、みんな、喜んでくれるかな。


「司ぁ。セトリ。こうなった」

谷川が俺に紙を渡してきた。

うん。

「わかったよ」

「よーし、じゃあ通してやろう」

「谷川、太田」

俺はマイクを通して大きな声で言った。

「がんばろーう、ねっ」

太田は、おう、と小さく返事をしてくれたけど。

谷川は、

「なーに、今更言ってんだよ!しかも覇気がないぞその言い方!やり直し!」

とダメ出しをしてきた。

えぇ~?

言うんじゃなかった…。