どこに走ったのかもわからない痛みに、紗散は、自分が無意識のうちに唇を噛み締めていたことに気付いた。
我に返ったのは意識だけで、体は相変わらず言うことを聞きそうもない。

そんな中、やっとのことで唇を抉じ開けたのは、彼だった。

「………………鬼道。あなたのことだから、見てるんでしょう……?」

瞠目していた切れ長の目は瞬きを思い出し、声色は思ったよりずっと落ち着いている。
ただ、言葉の合間に深く吐き、吸う息が、雉世の緊張のほどを知らせた。

「あなたが、日本を変えたい、なんていう理由で動いたりしないのは、分かってます。目的は…………復讐?」

返事はない。
鬼道が本当にこちらを監視しているのか、鬼と弥桃たちの接触に気付いているのかもわからないほど、鬼は微動だにしなかった。

弥桃も、涓斗も、紗散も、鬼と雉世を見比べるばかりだ。
どうするべきか考えあぐねている、というよりは、動くべきか測りかねている、といった方がいい。

そして紗散が何度目か、鬼に目を向けた瞬間のことだった。

不意に、その赤い目線が、真っ直ぐと自分に向けられているような気になる。
本当にそうなのか、気のせいなのかも、判断がつかない。

ただ、それがふと近付いた気がしたとき。


紗散は、衝撃と激痛を感じた。