そう言って紗散が拾い上げたのは、イルカ型のチャームだった。
500円玉ほどの大きさのそれは、地面に落ちていたのにそれほど汚れたり傷ついたりもしていなくて、きっとごく最近そこに落ちたのだろうと予測できる。

「さっきのビーズもそう、俺が去年の宿泊研修の時、ヤヨイちゃんにあげたお土産のストラップだよ!」
「あ……そか、ヤヨイがランドセルに付けてたやつ、」

暗くてあまりよくは見えないが、イルカの尻尾の隅の方にある小さな溝は、恐らくロゴか何かなのだろう。
水族館の名前が入っていたはずだと言うから、間違いはないようだ。

「抵抗した時に千切れたのかな」
「あれ……おかしいな」
「え?」

言いながら雉世の視線は、定まらずさ迷っている。
他のビーズを探しているのだと気付いた弥桃たちがそれを発見したのは、数分後、5メートルほど離れた道路の隅だった。
小指の先ほども無い淡い光が、そのさらに数メートル先でも、光っている。

それをしげしげと眺める雉世の表情は、夕闇で見えなくても、明らかに何かを思案していると分かる。

「これ、全部で何個ぐらいだった?」
「えっとー……確かこんぐらいの長さだったから」

そう言って紗散は、親指と人差し指の先をくっつけた輪を示した。
ストラップの金具にビーズが連なった輪がついていて、イルカのチャームはその先に下がっていたと、涓斗は記憶している。

「だいたい20個ぐらいじゃね?」
「そう……じゃあ、やっぱり変だ」
「え?」
「だって、勢いよく千切れたにしても、5メートルも10メートルも飛ぶなんてこと、あんまりないでしょ? ある程度一ヶ所に集まって落ちてるはずなのに」

確かに雉世の指摘通り、暗闇の中目立つはずの蛍光ビーズをあれだけ探して、見つけたのはまだ3個だ。

ふと、紗散が顔を上げた。

「もしかして、あれじゃね!? ヘンゼルと……」
「ブレーメ、」
「グレーテルな。」
「ふざけるのやめてくれる?」

ひそめられた雉世の眉間にすぐに口を噤むが、弥桃がふざけてなどいなかったことは、恐らく3人とも、疑っていない。
そしてそんな紗散の間の抜けた突拍子もない思い付きにも、今は縋ってみる価値があるように思えた。