「で? 話ってなに?」
「バックレてんじゃねぇよ昨日の今日で。大体分かってんだろ」

授業中にさすがに空き教室にいるわけにもいかないし、今時校舎裏なんてベタなスポットは存在すら珍しい。
だが便利なことに、この学校にはこぢんまりとした古い剣道場があるため、自然と不真面目かつ反抗的な生徒が溜まり場にするのはいつもそこだった(そして現在この学校にそんな問題児は、約3名しかいなかった)。

外に声が漏れない所まで来るなり言う雉世は、あくまで困り笑顔だ。
涓斗がこうも怒りをあらわにすることは、意外に珍しい。
彼はいつ何時でも飄々とした態度か暴力的な笑み、もしくは感情を掻き消した表情を浮かべ、そしてそれが何より狂気的な秋山涓斗像を作り上げていた。

土足で入り込んだ板張りの床は、スニーカーのきゅ、という音も濁るほどに使い込まれている。
昔は強かった剣道部も今は同好会扱いにまで縮小、ここももう何年も使われていないらしかった。

「鬼道正司。ネットで検索したら一発で出てくるほど、有名な科学者だったんだな」
「あぁ、そのこと。そりゃそうだよ、あの人は天才だから」
「お前……悔しくないのかよ、あいつ犯罪者のくせに自分だけふつーに生活してんだぞ!?」
「別に、僕が悔しがったからってどうにかなるわけでもないだろ。……話はそれだけ?」

やけに冷めている。
雉世の態度は、明らかにあらゆるものから一線を引いていた。
急に縮まったと思っていた距離がおもむろにあの争奪戦の時まで戻ってしまったような、もしくは、本当はあの時から少しも変わっていないのだと、痛感させられたような気を覚える。