しかし、お見舞いに行ったその病室で、テレビのニュースを見た4人は、驚きのあまり声を失った。

鬼の存在が、なかったことにされている。

鬼の遺体と鬼道の遺体は確かに、あの廃工場の同じ部屋にあったはずだ。
病院で手当てを受けた弥桃たちの怪我も、明らかにぶつけたり転んだりでできる傷ではなかった。
それなのにどのニュースを見ても、正体不明の大怪物の一切を無視して、“モーロクジジイが血迷っただけ”の誘拐事件として取り扱っていたのだ。
それどころか、春先から数件立て続けに起きて、傷害事件にまで発展した、奇妙な強盗事件のことまで、“被害者の見間違い”で片付けられようとしていた。

紗散は愕然としたし、涓斗は憤慨したし、弥桃は不愉快そうに明らかに眉を顰めたし、雉世は考えた。
そんなに簡単な事件ではなかったはずだ。

鬼は確かに存在して、強盗を働いたし、人も傷付けた。
それは鬼道という狂った学者が長い時間をかけて作り出した、人智を越えた化け物だ。
その研究のために、少なくとも2組の夫婦が消され、1人の男が義子を残して死に、1人の女が子供と引き離され殺され、5人の子供が親を亡くした。
さらに、1人の女は兄夫婦を失ったし、1人の男は腕を食い千切られ、1人の警官がこの先一生歩くことができなくなった。
鬼の爪に抉られた傷痕も、涓斗の脇腹には薄く残っている。
そんなに簡単な事件ではなかったはずなのだ。