「ねえ、ここ痛い」


ユキが突然唇を指差しながら顔を近づけて訴える。

私もその唇を覗き込むようにしながら、
そっと手であごを持ち上げた。

このままキスしちゃってもいいかな、
なんて考える距離だよな。

目までつぶっちゃってるし、
やばい雰囲気だ。


「どうしたの?なんか少し切れてる?あんまり触んないほうがいいよ。ばい菌たくさん入るから」


やはり少し切れているようで、
それが気になるのか唇を舐めたり手で触っている。
お互いが体の1部分を微妙な感覚で楽しんでいた。

髪の毛にはじまり、
そして唇。
こともあろうに、


「マニキュア塗ってるんだ?きれいな色だね」



「だって女の子だもん」



「セクシーバイオレットっていうんだよ」



「でも、あんまり爪きれいじゃない」



「そんなことないよ。きれいに長さも整ってるしきれいな爪だよ」



中国人のユキにセクシーバイオレットと言ったところで
「そんなのあるわけないじゃん」
とつっこみ入れられるわけないか。

手の指の爪は長くきれいに手入れされていた。

色はバイオレットで塗られていたが、
親指を触るクセがあるのか
そこだけ剥がれていた。

私はユキの手を取り剥がれた親指のマニュキュアを撫でた。

ユキの空いた手は私の手の甲を触れるか触れないかのタッチで動かされていた。

その指の暖かさが全身に伝わった。