壊れそうだ、と思った。

おっかなびっくり触れると、ほんのりと暖かかった。
僕の指を小さな手がぎゅっと握った。



「ほら、悠ちゃん、お父さんよ?」


どうやって、抱き上げたらいいのか分からず、体を強ばらせて、受け取った。
そのぎこちなさを、彼女は笑った。


母親の手を離れた途端、みるみる顔が赤くなって、赤ん坊は泣き出した。


「うわー、よしよし…」


必死にあやしてみても、一向に止む気配はない。
救いを求めて彼女を見ると、苦笑された。


「おいでー」


母親の手に戻ると、さっきまでが嘘のように静かになる。


「さすがだね」


感心しきっている僕に、彼女が言った。


「違うわよ。抱き方が不安定だから怖いの。
しっかり抱いて?
大丈夫、壊れたりしないから」


促されて、もう一度抱き上げる。
首を支えて、しっかりと胸に抱き締める。

じんわりと、温もりが心臓に伝わってきた。
微かに、ミルクの香りがする。


「ほら、ね」


今度は安心したように、小さなあくびをする。
自然と頬が緩む。
同時に、愛しさがこみあげる。


僕の子供。
僕らの子供。


悠。

僕らはずっと待っていたんだ。
この日が来るのを。
君に出会える、この瞬間を。



僕の腕で寝息をたてる、小さな命。
君のために生まれてきた、なんて僕にはまだ言えないけど。
頼りない僕のもとへ、君はやってきてくれた。


これから一緒に、家族になろう。


僕はきっと、忘れない。
君をこの腕に抱き締めた日を。
何よりも、この想いを。



ありがとう。
ありがとう…


感謝しているよ。


涙があふれる僕を、彼女は優しく見つめていた。

腕の中で、赤ん坊も笑った気がした。