その声を聞いた途端に、胸が詰まって。
言葉は、みんな押し潰されてしまう。

「なんでもないよ」


伝えたいのは、そんな言葉じゃないのに。

あなたの声があまりにも普通だったから。
あたしとあなたでは、こんなにも温度差があると、感じさせられてしまったから。


あなたには、この距離は感じられないの?


「……あや?」

沈黙したあたしを、あなたが呼ぶ。
胸の中の重しを下ろしてしまいたくて目を瞑った。



「別れよう」

あたしの口から言葉が落ちた。

「いいよ」

同じぐらいあっさりと、あなたは言う。
そう言われるのは分かっていたけど。


あなたにとって、あたしはどんな存在だったの?

聞けるはずもなくて、涙だけが静かにこぼれ落ちた。


「理由だけ教えてくれない?」

変わらない温度でそう問いかけるあなたに、あたしは答える言葉を見つけられない。


あなたが好きだから。
あなたを好きでいることは苦しいから。

あたしにはもう、耐えられないから。


どれも言葉にならなくて。


「もう、疲れちゃった」

そう言うのが精一杯だった。


「そか」

少しの沈黙の後で、あなたは言った。

「これで俺はもう、あやを泣かせずにすむのかな」


静かに、電話は切られた。

余韻はまだ耳の中に残ってるけど。
あたしたちはもう、もとには戻らない。


どこかホッとしてるあたしがいる。

あなたを失くす痛みより、あなたを待つことの方が、あたしには苦しかったの。

きっとあなたも。
あたしの期待を裏切るのは辛かったよね。


これでよかったと、いつか笑ってあなたに会えるなら。
今のあたしには、それぐらいしか願えないけど。

もう、期待するのは辞めてもいいよね?


薄い膜の張った夜空は、曖昧な返事しか返してくれない。

それでよかった。
立ち止まるほどの強さのない光が、やんわりとあたしを歩かせていた。