夜が明ける前に



***



……夢、か。


静かに目を閉じると、雨音が耳に入ってきた。


シトシトと静かに落ちる音に耳を傾けながら、ゆっくりと眼を開けて体を起こした。




「…もしかして、いる?」


小さく、けれどはっきりと声を出してみる。


胸が締め付けられる感じ。
昼間に感じたのと同じだ。



薄暗い部屋をきょろりと見渡しても、人影はない。でも…



「……よく眠れたか?」


耳元で響いた声の甘さに身体がざわめく。







…やっぱり、いた。






振り向くと、斜め後ろに眼を細めたギンジがベッドに座っていた。

やはり、黒傘を手に持って。



それが何だか可笑しくて、ふっと笑ってしまう。




「……?」


こくっと首を傾げるギンジに、また笑ってしまう。
今度は眼を細めて睨まれてしまった。




「ふふっ…ごめん。一回目は何で傘持ってるんだろって笑いで、二回目が可愛いな、て笑い。」



「…よく解らないことで笑うんだな。」




ふっ、と表情を緩めた彼につい眼を奪われてしまう。

細く弧を絵描いた隙間から漏れる緋色が、薄暗い中で光る。

宝石が光を当てられたように、キラキラと揺れていた。