週末のデートで荒井から付き合って欲しいと言われた京子はもちろん頷かない。

流行の顔立ち、おしゃれな容姿、お喋り上手で社交的な性格。

断る理由はない。


だが、京子は彼氏の森山が大好きなのだ。荒井には何も求めていない。

―――ただ自分を好いてちやほやしてくれればいいだけだ。


振りはしない。キープになるように京子は言葉巧みに“荒井が好きな人”と言うポジションを死守した。





今日は大学の朝一の講義に出ていた。

席は1番前の先生の正面。本当は活発な男は後ろの席に座ることが多いからその席に行きたいが、京子はあえて優等生席を選ぶ。


教授の話に相槌を打てば、年配の教授などは熱心な学生の存在が嬉しいのか、話の途中で話題を振ってくる。

そこで敬語をきちんと話し、しかし冗談を交えて愛想よくみんなの前で談笑を交わす。


そうすることで、“勉強に熱心な真面目な女の子”だけではなく、

“老人にも優しく常識がある女の子”だとみんなが認知してくれる。


こんなに簡単で効率的な自己アピールはない、と京子は思う。


勉強は嫌いだが、授業態度で今までなんとかやりとげてきた。

なので京子はきちんと板書を写すし、ルーズリーフではなくあえてノートに丁寧に口頭の話さえも書き込んでいく。



雰囲気・健気、それがモットーだ。