「大ちゃん、ごめんね」
「なにが・・・?」
「ううん、私、だめかも、バイト先変えようかな」
「なんで・・・?」


大げさにふきんを口の前ではためかせ、京子は言った。


「言えない。だって、大ちゃんの彼女が悲しむから」



後は簡単だ。
普通にTVの話や大学の講義の話をして笑えば良い。





バイトの帰り道、携帯片手に荒井とメールのやりとりをする。

週末遊ぶことになったので、見たかった映画が見たいとリクエストをする。

好きな女のワガママは魅力のうちになるから、向こうに気があると分かれば徐々に自分の主張を始める。



と、画面に浮かんだのは、“大江”の文字。

ボタンを押してメールを開けば、予想したとおりの文章が連なっていた。


<報告。彼女と別れた。
 残念会よろしくです!>



簡単だ。駆け引きにならない初歩的な言葉遊びに簡単に引っかかっていく。

男はみんなバカだと思うが、男こそが純粋だとも思う。


みんなブリッコが嫌いだと言う割に、こんなに計算高い女を嫌いになれていないじゃないかと京子はボタンを動かした。



<話くらいしか聞けないけど、良かったら話を聞くよ。
 残念会を開こうね!!>




京子はにこりと笑って送信ボタンを押した。