タラシのようだと思われるなら、京子は不服だ。

あくまでもこっちが満面の笑顔を向けただけで、頬を染めたり少し恥らう仕草をした“勝算のある”人が居ることが悪いのだ。

男が単純なだけだと常々京子は思う。


「暇だねー」「暇だなー」
「時給泥棒ー」「まかない食べるか?」

平日の夕飯時を過ぎたあたりは客がまばらで、キッチンに居るバイト仲間の大江とぼんやり話をしていた。


大江は彼女が居る他大学4年生の男だ。

「大ちゃん彼女とどうなの?」
「んー8ヶ月だからね、普通?うん」
「へえ、いいなぁ8ヶ月でラブラブなんて」
「いやいや、もう普通だから!」

あははと笑いながら、京子は「大ちゃんと付き合えるなら彼女ずっとラブラブだよ~羨ましい」と言う。

「うわ、略奪愛か!?」とふざける大江に、京子は眉をたらして上目遣いで見つめた。


「略奪愛はたちが悪いよ、彼女は可哀想だけど魅力がなかったんだし、

彼氏は情熱的だけど乗り換えることが軽いし、略奪者は一途だけど卑怯じゃん。


だから大ちゃんが別れたら教えてね」


「・・・は?」

「うん、だから大ちゃんが別れたら教えてね?」


いつもの笑顔を貼り付けて、京子はにこにこと笑った。