ルースとは、指輪にもネックレスにも加工されていない、石だけの姿のことだ。

 安西はポケットから白い手袋を出して片手にはめると、その手で、ルースを掴みあげた。ぶっとい指に挟まれてルビーはキラキラと輝いた。

よく見ると、中央に綺麗な星型の光が現われている。

「スタールビーですか」

 師匠は言った。

「見事なアステリズム。しかし、せっかくの彩光を、このカットは殺してしまっていますね」
 
言って、安西の表情をじっと観察しているようだった。

 安西は、師匠の思惑通り、微かにうろたえているのがわかった。

「スタールビーは、カボッションカットにされてこそ、中央に現われる光の輪が美しく見えるのです。どうして、こんなカットにされているんでしょうね」

 そういわれれば、カボッションという丸い削り方とは違い、フチだけだが、ダイヤモンドや他のルビーのようにカットされている。

 しかし、師匠は、それの何がそんなに気になるんだろう。

 類は怪訝に思った。

 それから、ふとさっき師匠が言っていたことを思い出した。