「ところで、何の証拠も提出しないで、依頼料はもらえるんでしょうか?」
 
確かに田口婦人は気前のいい性質だと思うが、それは自分の身内に限ってである。

こんなどこの馬の骨とも分からない怪しい探偵に、素直に依頼料を全額出すとは思えない。
 
類は愛車のアクセルを一杯に踏み込んで、師匠を見た。
 
シマッタ。
 
と、その顔にははっきりと書かれてある。

「言っときますけど、あたしのバイト料はしっかりいただきますよ。それから、パーキング代の二百円も」

師匠は黙った。
 
類は師匠が車に酔う人だと言うことをやっと思い出して、ソフトな運転に切り替えた。 
 
それでも、師匠の顔色の悪さは変わらなかった。