田口氏が黙っている隙に、タクヤがお盆に載せたお茶を運んできてくれた。

「ありがと」
 
類が言うと、にっぱあと照れくさそうにタクヤは笑った。
 
笑うと、整った顔が崩れるが、そこがまた、可愛い。
 
子供は好きではないが、類は彼には好感を持った。

「おい、翔也、走り回るの、やめろ。お客さんが来ているときはどうするんだった?」
 
タクヤに言われると、弟君はしぶしぶ走り回るのをやめて、右手にあるふすまを開けて、中に消えた。
 
静かに遊んでいた妹ちゃんも、それに続き、さいごに、お兄ちゃんが入ってふすまを閉めた。
 
なかなか、しつけが行き届いている子供達だ。
 
感心していると、キッチンから、誰かが出てきた。
 
ここの主人である子供達の母上だ。
 
彼女は自分の分のお茶をコーヒーカップに入れて、飲みながら現われると、壁にもたれて、座っている一同を面白そうに眺めた。