「そう。良かった。あたしのおじいちゃんの国のしきたりを気に入ってくれて」

「それで?何でそんなことオレにわざわざ教えてくれるんだ?」

「あら、だって言わないと分からないでしょ?」

 類は艶然と微笑むと、湯佐に近づいた。

 ほとんど身体が触れる距離まで近づいたので、いつも平気で人のテリトリーを犯して接近してくる湯佐の方が、驚いたようだった。

「それに、赤い服を着てやるのが一番正式なの。日本のあだ討ちだと白装束でしょ?」

 類は、湯佐の腕に触れた。

 湯佐の酔いは余計にまわったようだ。

 顔に、もともとないしまりが一層なくなる。

 類は黒目がちの潤んだ目で湯佐を見た。

「覚えてる?この間あたしにキスしたでしょう?」

「もちろん覚えてる」

 その返事を聞いて、類は、湯佐の腕に身体を押し付けた。

「トリゴーグのしきたり。目には目を。キスには」

「キスを?」
 
類は湯佐の目を覗き込んだ。