人通りの無い道路を二人の人間が歩く。

「きんちょうしている。」

歳は七つくらいに見える手毬を抱えた女の子。白いワンピースを着、烏の濡れ羽色をした綺麗なおかっぱ頭をさらりと揺らしながら、涼しい一重を持つ瞳で隣を見る。

「ちよさんも緊張するの?」

答えたのは、癖毛のせいで上手く整えられずにぼさっとした黒髪を右手で撫で付けている男。撫で付けたために眼鏡がずれてしまい、二重瞼を閉じて大きな瞳を隠す。細身の体には少し大きいスーツを着、ネクタイまで結んでいるが十四歳という実年齢を隠すにはまだまだ幼い。しかも左手には英単語帳を持っているので尚更だ。

「住吉が緊張している、烏が集まってきた。」

近くにある電柱の電線には十数羽の烏。住吉は無意識に続けていたらしい鼻歌を意識して止めた。

「うん、今まではじいちゃん達と一緒だったから。」

「わたしがいる。」

ちよは片手で手毬を抱え、空いたもう一方でそっと住吉の腕を握りながら言った。