「…先生」
「あ、俊輔くん。
どうだい?体調は。」
必死でいつものように笑おうとしているキョンちゃん。
でもさ、残念ながら顔、引きつってるよ。
その顔、笑顔、って言うより変顔だよ。
「ひろのこと、追いかけないんですか?」
そう言うとキョンちゃんは驚いたように目を見開いて、そしてすぐにふっと笑った。
今度はちゃんと笑えてたけど。
だけど、目がすごく悲しそうだった。
「俺に追いかける資格なんてないよ。
俺が千尋に彼女のこと、言わなかったのがいけなかったんだから。
もっと早くこのことを伝えていれば…千尋は傷つかなくても良かったのかもしれない」
そうだよ、キョンちゃん。
先生が思わせぶりな態度でひろに接するから。
先生が彼女のことひろに言わないから。
ひろはどんどん先生に惹かれて行ったんだよ。
こうなるなんて予想もせずに。
「先生」
「ん?」
「俺、思うんだけどさ。」
「うん」
「人が人を好きになる、ってさ、すごいことだと思うんだよね。
世界中に何十億、って人がいてさ。
その中で同じ日本、ってところに生まれて。
いろんな偶然が重なって、2人は出会う。
こんなの『奇跡』じゃん。
ここまでくるとこの『奇跡』も本当は『必然』だったんじゃないか、って最近思うんだ」
「奇跡が…必然?」
「うん、そう。
生まれたその瞬間から決まってたことなんじゃないかと思う。
根拠も証拠も何にもないけど。
だけど、ひろが先生に惹かれることも。
先生が彼女、っていう存在がありながらひろのことを気になるってことも。
全部…全部、必然だったと思うんだ」


