「なあ、俺、ちょっと聞いたんだけど」
「何を?」
健が俺に顔を寄せて小さかった声をもっと小さくする。
「あの新田京太、ってセンセ。
結婚間近のカノジョがいるらしい」
そこまで聞いてまた、中断。
「お願いします」
そう叫んだものの、頭は違うことを考えている。
だって、そんな話…あるかよ。
ひろがどれだけあのキョンちゃんを想ったところで、それは『叶わない恋』ってことだろ。
じゃあ…それじゃあ、ひろの想いはどうなるんだよ。
「おい!俊輔!」
「え?!」
あ!やべっ!!
考えに耽りすぎてボールが飛んできていたことに気づかなかった俺は慌ててボールを追いかける。
間に合うか間に合わないかの瀬戸際で俺はボールに向かって飛び込んだ。
…あっぶねぇ。
ギリギリセーフ。
なんとかグローブの中にボールは収まって、立ちあがる。
「古川ぁー!
ぼーっとすんな!!
今から練習終わるまでランニング!」
「はい!すいません!」
ボールを投げ返し、
俺はランニングを始めた。