ひろを家まで送ったその帰り道。

俺の頭の中はひろの言葉を反芻していた。



ひろがそんなに苦しんでいたなんて。

ひろの家族がそんなことになっていたなんて。


俺は、何も知らなかった。


俺の知ってるひろの家族は、

みんな温かくて、みんな優しくて。


いつも笑顔が絶えなくて。


俺の中の理想の家族像に近い、家族だった。


それなのに。

たった一時とは言え、家族がバラバラになりかけて。


ひろのお父さんも、お母さんも、明海ちゃんも苦しんで、悩んで。

そして、ひろは自分が元通りにしてみせる、そう決めて。

一人で闘おうとしていたなんて…


俺…なんでもっと早く、ひろとちゃんと向き合わなかったんだろう。

ひろは今もたまにあのことを思い出して、泣いているかもしれないのに。


それに、俺はやっぱり健が憎いと思った。

でもそれ以上に悔しいと思った。


あの頃、なんで俺はひろの隣にいてやれなかったんだろう。

こんなこと悔んだって無意味なことくらい分かってる。


でも、1番ひろが苦しんでいたときに。

俺は多分、何も考えずに笑ってたんだ。


そう考えるだけで自分自身に腹が立って。


自然と自転車をこぐ足に力が入った。